次の SNS が始まっている -3

SNS の未来像

新しい SNS, ピラミッドモデルと分散モデルの概観

前項で示したピラミッド型と分散型, 二つの SNS についてもう少し考えてみたい。
まず今の mixi, gree, MySpace は限られたスペースでインフラからサービスまでをフルセットで提供していることから仮にボックス型と称してみる。
次に考えられるのがボックス型が API 等によって連結され SN システムを共有した状態で, Amazon のようなアーキテクチャとビジネスモデルを形成する。SN システムを供給する側とそれを利用してサービスを構築する側の二層に分かれ, ボックスが上下関係を持って積みあがる状態になるのでこれをピラミッド型 (二層しかないが, ひとつのインフラプロバイダと無数の利用者という頂点を持つ構造) と呼んでみる。
ピラミッド型はボックス同士が SNS インフラ層を共有することでユーザが壁を感じることなく異なるサービス間を行き来できる世界が広がるが, これは 100 個あった SNS が大別して 5 系統に整理されましたよ, といった世界で "壁の無い世界" を実現したわけではない。可能性的にはボックスモデルと同じ次元に位置する。
では "壁の無い世界" は実現可能なのか。それを考えてみると (一社が競争を勝ち抜き全てを統合するという大ピラミッドは論外として), SNS を階層化してサービスとシステムに分け (ここまではピラミッド型と同じだが次が挑戦となる) それぞれの層で求められる役割をこなすプロバイダ同士がピアにつながるモデルが期待できる。これを分散型と呼んでみる。
ピラミッド型では寡占/独占状態にあったインフラ層を分散モデルではオープンな参加性の元に多数の事業者が協調的に役割を担うようになる。
ただ, 分散型の実現にはオープンなアーキテクチャ, フォーマット, コミュニティ, 実装とキラーアプリケーション, 色々と必要だが, Identity システムに目処が立ちそうなくらいで, 他はどれもまだこれといったものが無い。実現には一番遠い。

インフラ層/サービス層への二層化と SN プロバイダの登場

現在 主流の SNS モデルはボックス型だが, そろそろボックス型では社会的要求を吸収しきれない状況が生まれつつある。
ボックス型では SNS 内のサービスの広がり, 多様化が遅いのだ (ユーザ != 開発者という構造にも個人的には不満があり限界があると見ている)。
ユーザが日常的に使う SNS はひとつか、せいぜい数個だろう。しかし SN サービスの開発は運営側の企業個体が 100% 担っているため, SNS の機能的拡張が一社の管理下に置かれる多様性に乏しい状態にある。企業側もメジャーな SNS でのサービス供給の側への参加性が閉ざされていると自分たちでインフラからサービスまでをセットにしたボックス型の SNS を立ち上げ, 既存 SNS とユーザの引き合いになり潰れたり過疎化したりといった空回りを招いている。

これを解決するには, 既存の SNS 事業者はビジネスモデルを転換し, 自分たちの SN システムの上で多種多様なサービスやアプリケーションが生まれるように自分たち自身でサービスを開発/提供するモデルから, 自分たちはインフラの開発維持に注力し, サービス開発自体は外部のサービスデベロッパを引き込む形態にシフトすることが考えられる。
ピラミッド型の SNS がそれだ。
これは SNS 事業者にとっても魅力的なモデルで, サービスが多様化すれば SNS の吸引力は高まり, 何よりインフラを売ることで開発ツールや利用形態ごとの課金といった広告以外の収益を生むことになる。
サービスデベロッパとしても, 課金が適切であれば, ユーザ獲得のコスト/リスクが無いので開発資源を効率化したり, よりニッチな方面を目指すといったことが可能になる (ここでの話ではないが, サービス層での開発コストを限りなく小さく引き下げていくというのは重要な挑戦だ)。

ここで描いたのは既存の SNS 事業者がスライドしたり, 新しく事業として立ち上がるピラミッド型 SNS のイメージだが, もうひとつ考えを進めてみる。

上記の変化から, 今後求められるのは, 従来の SNS for Communication ではなく, (Communication も Application のひとつとみなした上での) SNS for Application, SNS for Development アプリケーション開発のための SNS だと言うことが出来る。
そこで思い出したいのは Google, Microsoft の存在だ。
現在 Google, Microsoft が注力している戦略, 彼らが自らの敷設したサービスインフラの上で無数のアプリケーション, サービスをユーザに作らせ生態系を構築していこうとする途上で, SN システム, SNS for Application が投入されたり Identity システムの利用例として SN サービスや SN ツールキットのようなものが登場するといったシナリオは予想できる。
彼らの文化や収益モデルはピラミッド型 SNS の生態系を育てるために, SNS 事業者系と比べて, 適したものがある。より純粋に for Application, for Development を考えれるだろうし, デベロッパコミュニティの存在や投資力 -人材, ノウハウ, 体力の違いも大きい。
ピラミッド型 SNS の覇者は Google, Microsoft になるのではないか。
既存 SNS 事業者にとっての有利な要素は Google, Microsoft がまだそれを始めていないこと, 重要度の高いアプリケーションである Communication サービスで一日の長があること程度でしかない, という予感がある。

他にも, Microsoft, Google のような強力な Identity プロバイダ/システムの上に mixiMySpace のような事業者がもう一枚挟まってサービスを支える, つまり サービス/アプリケーション層, SN システム層, 基盤システム層 (web 上での Idenitity, SSO, ペイメントサービス等を提供する) といった三層構造になる可能性も考えられる。Microsoft, Google のようなプロバイダと mixi, gree のような既存サービスが共存を目指すならこのモデルが考えられる。
何れにせよ, ピラミッド型の SNS 事業者が現れて争った後に Google, Microsoft のインフラサービスの元, より下位レベルのレイヤで統合されていく可能性があると思っている。

user-centered への挑戦

ここまでは考え得る可能性の高い順に想像を繋げてきた。
だが SNS の価値や社会的可能性から考えた場合, もっと別の方向があるのではないか。

結論から書いてしまえば, 今までの Application/Service プロバイダが中心となりユーザがそこに参加する形でぶら下がっていた Appliaion/Service-Centered のモデルから, ユーザを中心として Application/Service が機能するような User-Centered のアーキテクチャに転換してしまう, SNS を再設計することだ。それが分散型だ。
SN 情報は他の誰のものでもない。ユーザ自身のものだ。自分が信頼するプロバイダに預け, 組み合わせ, 自分が望むアプリケーション, サービスで使う。SN を支えるインフラ層への参加性は開放されて新規参入を許し, コミュニティベースで進歩があり, 勿論サービス層への参加性も開放されていることから SN を前提としたサービスを個人から企業までが自由に生み出していく。

幸いにして今, web の流れはサービスや情報がドメインごとに分断された状態からそれらを繋げていく web-wide にスケールしようという場面に差し掛かっている。社会的欲求と Google, Microsoft というビッグプレーヤの存在, SemanticWeb 方面の技術の仕込みやコミュニティの成果といった様々なものが結実して web-wide なシステムが実現しようとしている。
そこで web-wide system を Application/Service-centered に留めるのか, それとも User-centered に作り変えるのか, それが今後数年間の重要な挑戦になるのではないか。勿論, SNS もそれに含まれ, ピラミッド型で留まるのか, user-centered な分散型になるのか, 分岐路が待っている。
SNS とは何なのか。SNS が自分の人間関係を bit 化し, 情報の流通に役立てるといった web/semweb 的な発展を目指すものなら, SN を情報財化してユーザのコントロール下に置く User-Centered への転換は必須だと考えている。

web-wide system としての SNS が実現しても, それがピラミッド型 - Service/Application/Provider-Centered である限りその SNS には壁がある。サービス間を行き来できないといったような表面上の不便さは解消されるかもしれないが, 例えばインフラ層の発展, アプリケーション開発への参加性といった生産/創造的側面に於いて何かの壁が残る。
例えばサービス層を支えるインフラ層に健全な進化を求めたとき, Google といえども寡占状態が本当に望ましいとは思えない。
SN 情報を社会的に価値のあるものにするためにユーザが中心となって SN 情報を取り回すモデルを, あらゆる面で参加性を開放して uncontrolled な多様性を持つサービス層を作り出すために, コミュニティ主導で, オープンアーキテクチャ, オープンフォーマットで実現できないだろうか。
アーキテクチャやシステム自体がオープンであって初めて SN は情報財として保証され, ユーザは様々なサービス, アプリケーションに於いて同じ SN を透過的に使うことが出来る (What, Where, Who, How, に束縛の無い SN システムが成り立つ)。

Google, Microsoft, mixi, MySpace といった数社の対立的な競争ではなく, 発展性や社会的価値に寄与する協調的な競争を生み出せないか。(自分自身は歴も浅く詳しくないが) オープンソース等の知的活動の成果として, その体験はあるはずだ。

また, 狭い話をすればこれだけ SNS が流行った国内の状況を大切にしたいという動機もある。ピラミッド型を目指して, それで Google, Microsoft がやってきて勝てるのか。インフラ層をがっちり抑えられて, 税金や金鉱の横に食堂を建てるような, そういう持っていかれ方をするのではないかという危惧がある。
ならその先を考えて, 階層化してインフラ層は公共的なものにしてしまい, mixigree といったサービスデベロッパは自分たちの得意なサービス層での競争に切り替えてしまえばいい。サービス層で mixigree も, 国内勢が十分に力を尽くして発展的競争をやればいいのではないか。